東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1658号 判決 1968年4月10日
控訴人(債務者)
有限会社甘太郎総本舗
代理人
竹内三郎
被控訴人(債権者)
安藤栄吉
代理人
金田善尚
主文
昭和四二年(ネ)第一六五七号事件について本件控訴を却下する。
昭和四二年(ネ)第一六五八号事件について本件控訴を棄却する。
控訴費用は右両事件とも控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
(昭和四二年(ネ)第一六五七号仮処分異議控訴事件について)
まず本件控訴の適否(被控訴人の本案前の抗弁)について判断するに、原判決によれば、本件仮処分異議事件の原審において被控訴人(債権者)は本件仮処分決定を認可する旨の判決を求めたのに対し、控訴人債務者は本件仮処分決定を取り消す旨及び本件仮処分申請を却下する旨の判決を求め、その事由として仮処分の要件を争うとともに抗弁として事情の変更等を主張したところ、原審は本件仮処分決定はその決定の時点ではその要件をみたすもので相当であつたとしてこの点の控訴人の主張を排斥しながら、控訴人の事情変更の抗弁を採用して本件仮処分決定を取り消す旨の判決をしたことが明らかである。
ところで本件控訴における不服の理由は原判決がその主文に本件仮処分申請を却下する旨を掲げなかつたことにあることは前記控訴の趣旨より明らかである。本来仮処分に対する異議は口頭弁論を開いてさきになされた仮処分決定の当否を審判すべきことを求める申立であり、仮処分申請の当否の判断は直接その対象ではないものと解せられるから、仮処分債務者はもともと別訴で仮処分決定の取消申立の事由としても主張しうる仮処分後の事情変更を、仮処分異議事件において仮処分要件の事後の欠缺の意味でこれを一の防禦方法として主張しうるものというべきである。本件で原判決の採用した事情変更の抗弁もそれであることは原判文より明白である。この場合異議申立の趣旨として掲げられる仮処分決定の取消の申立は異議の理由の開示(民事訴訟法第七四四条第二項)たるに過ぎず、語の厳密な意味での申立ではない。いわんや申請却下の申立は異議の本質に向けられたものではないといわなければならない。かかる仮処分申請却下の文言は仮処分異議事件において通常債務者から申立てられ、また仮処分決定取消判決の主文に掲げられるのが慣例のように見えるが、これはすでに不適法として取消した仮処分についての申請をそのまま残存せしめておくことは後日の紛争のもととなるおそれがあるので、これを未然に防止するために仮処分決定を取り消すついでに便宜上とられる処置で、それ以上に法律上の意味をもつものとはいい難いこととなる。しからば原判決が控訴人の異議によつて開かれた口頭弁論の結果原決定を不当と判断し主文において本件仮処分決定を取り消す旨を掲げ、それ以上には本件仮処分申請の当否にふれず、従つてその却下を宣言しなかつたのはかくべつこれを違法とするには当らない。
そうだとするなら本件仮処分異議事件について前叙のように控訴人の事情変更の抗弁を採用し、本件仮処分決定を取り消した原判決はひつきよう控訴人の異議を認容したものであり、控訴人にとつて全部勝訴の判決というべきである(なお、原判決は訴訟費用の負担につき一部敗訴の場合の民事訴訟法第九二条を適用しているが右の意味で適当ではなく、同法第九〇条を適用すべきであつた)。すなわち控訴人は本件につき控訴の利益がないものというべく、また原判決主文に本件仮処分申請を却下する旨がないことをもつて本件控訴の不服理由とすることはできない。よつて本件控訴は不適法としてこれを却下すべきである。
(昭和四二年(ネ)第一六五八号仮処分取消請求控訴事件について)《省略》(浅沼武 上野正秋 柏原允)